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気になる症例集

女性の排便障害

最近注目されている、排便障害を訴える症例を紹介します。

数年前より便秘傾向で時々、血便(紙に付く程度)もあり来院した65歳の女性である。
内痔核は あるものの特別な所見はない。
しかし、よく聞いてみると、トイレに行くもののなかなか便が出ず30分ぐらい力んでいるという。
そして、この患者さんの最後に言った表現の仕方が興味深い。

「肛門の前の方がふくらんで、どうも出口まで出てこない」そして「膣に指を入れて押さないと便が出てこないんです」と言う。
これはまさにRectocele(直腸膣弛緩症)である。

会陰下降症候群の亜型であるこの疾患は、わが国ではあまり知られた病態ではない。
一般に女性特有の疾患と考えられ、トイレ時間が長く、"いきむ"傾向がある便秘を訴える患者の中に多い。
自ら指を用いて排便したり・つに指を入れて排するような患者ではこの疾患を念頭に置かなくてはならない。

診断はデェフェコグラフィー(注腸排便造影)を用い,側面像で直腸前方が突出し、ポケット状に膣がふくらむことで容易に診断がつく。

成因は不明だが,会陰部の筋力の弱い状態にある者が、出産などにより直腸膣中隔がさらに脆弱となって発症するものと、出産などに関係なく、排便障害により"いきみ″が直腸膣中隔を前方に押しやり、その結果この病態が発症する二つの原因が考えられている。

治療は緩下剤、食物繊維の投与、排便習慣の改善によって経過をみるが、良い結果は得られていない。
手術療法としては、経膣的に直腸膣中隔の補強を行うやり方と.経直腸的に直腸前壁の余剰粘膜を切開し、粘膜下の筋層を縫縮するやり方があり、成績は良い。
また、術後数カ月は強い"いきみ"を控えさせることが肝要である。

Rectoceleは直腸ヘルニアの一つで、外科的に排便障害の一つとして認識されることがあまりなかった疾患であるが、殊に排便困難(便秘,残便感)を訴える女性の中にしばしば認められる疾患である。
直腸に起因する排便障害の一つとしてとらえ、診断および治療に当たることが肝要と思われる。