雑誌インタビュー・執筆情報
日本のクリニック最前線を訪問
患者さんと医療機関の「距離感」を縮めるため独自のスタイルで地域に情報発信えんどうクリニックは遠藤剛理事長(53)以下、看護・事務・厨房の各部門スタッフが「三位一体」となった総合力がある10床の有床診療所です。内科では主にプライマリケアを担いますが、理事長が特に専門とする領域は胃腸、肛門疾患。 内視鏡検査の経験が豊富で、肛門疾患で入院を伴う手術は年約300件、痔疾患の日帰り手術は約100件にのぼります。 こうした実績は、患者さんが納得する診療、分かりやすい医療を提供するという理念に基づくものです。そこには、患者さんが医療・医療機関を身近に感じてくれるようにと独自の工夫を凝らした情報提供ツールの効果もありました。 |
各部門のスタッフによる共同制作で提供する『まごころ医院新聞』
「患者さんにとって医療情報はまだ非常に少なく、医療サービスを受ける際の判断の選択肢がそれほどありません。そのため、医療に対しては敷居が高いというイメージが依然あると思います」。
遠藤理事長がかねてより、医療を提供する上で障害になっていると感じていたことの一つです。
そこで、医療提供側と患者さん側との情報の非対称性を少しでも解消しようと始めたのが、独自の院外広報誌「まごころ医院新聞」の発行でした。
医療をもっと身近に感じ、健康意識を高めてもらいたいという願いを込めて21世紀を迎えた年に創刊し、患者さんの目線に合わせて医療関連情報を発信してきました。
A4判8〜12頁、やや厚めの紙にカラー刷りで、編集は理事長はじめ看護師、事務、厨房スタッフなどで分担します。
そのため、専門的でありながら一般の人にも分かりやすく疾病を解説したコーナーや、生活習慣、食生活に関する注意点、保健機能食品、サプリメントの解説、アロマセラピーの紹介、医療保険の公費負担や高額療養費制度、税制の医療費控除の仕組みの説明など多彩な構成になり、読み手を飽きさせません。
また、内視鏡検査等の内容や実施手順も説明しているので、クリニックのパンフレットの役割も果たします。
「『まごころ医院新聞』は、待合室では患者さんの緊張を解きほぐすツールになり、診察室にはより円滑なコミュニケーションをもたらしてくれます。
私たちの写真も載せてあるので、初診の患者さんから初めて会った気がしないと言われることもあります」と理事長。
さらに、「パソコンが普及しネット社会と言われますが、ある程度見る人が限られます。
紙ベースの情報媒体はだれでも繰り返し読んだり、茶の間に集った家族みんなで読むこともできますから」と有用性を確信しています。
全国コンペで特別賞を受けるレベル
『まごころ医院新聞』は、2006年社内報や広報誌の全国コンクールである「全国社内誌企画コンペティション」で審査員特別賞を受賞しました。企画力や掲載内容を競った結果ですが、大手企業などから400件近い応募があったなか、発行5号目で初応募・初受賞という快挙になりました。
これからの情報提供に関して理事長は、「医療機関・医師は、何かできるか、何かできないかを患者さんに明確に示すことがますます重要になるのではないか」という考えを持っています。
「当新聞には、『私のところで対応できることはきちんとお伝えしています。
それ以外の医療は提供できませんので、必要があれば他の適切な医療機関を紹介します』というメッセージも込めています」。
広報誌を通じた情報提供とともに、診療が終わった後、隔週木曜の夕方にカンファレンスルームを開放して行う「健康セミナー」は、もう800回を超えて患者さんとの距離を縮めています。
講演のほか、ふだん外来では話しにくいことや心配事など患者さんの相談にも応じるのですが、その内容は医療の話にとどまらず、家庭問題や仕事上の悩み事にも及びます。
外来患者数が1日平均約140人にのぼり、1人あたりの診療時間が限られてしまうため、この健康セミナーは一人ひとりの患者さんの話をじっくり聞くための大切な機会になっています。
様々な形で情報発信し地域に貢献
遠藤理事長は、新聞、雑誌等を通じた情報提供にも積極的に対応しています。 また、地元テレビ局の特番に出演して専門医療を解説したり健康啓発に協力しているほか、一般紙のコラムでは医師と患者さんの関係を語るなかで上手な医療機関へのかかり方を説くなど、様々な形で地域に貢献しています。 「多くの寄稿や取材に応じてきましたが、それは自己反省するためでもあります。 その都度、これまで自分が行つてきた医療や情報提供等に改善点はないかと省みることができますから」。 経鼻内視鏡を導入した際は自身で試しておいて、患者さんにその実体験を伝えたこともありました。 理念の根本にあるのは「安心とまごころの医療」を提供すること。 その一環として、独自に医療事故防止対策のマニュアルを作成しインシデント報告制度とともに活用しているという、クリニックではまれな取り組みもあります。 趣味の川柳では、自治体が主催した川柳コンクールで大賞を受けたほどの「ひねり」のセンスを持つ理事長。 文章でも言葉でも端的に情報を伝えることができる理由が、そこからもうかがえます。 |