福島県会津若松市一箕町亀賀藤原417-3
TEL0242-33-0700
平日 午前8:30〜午前12:30まで
午後2:00〜午後6:00まで
水曜 午前8:30〜午前12:30まで
午後 休診
土曜 午前8:30〜午前12:30まで
午後2:00〜午後5:00まで
休診日 水曜日午後・日曜・祝祭日
雑誌インタビュー・執筆情報
症例に学ぶ EBM指向 輸血検査・治療
 

緊急手術のため行ったDi不適合輸血により高ビリルビン血症を起こした症例

症例 40歳代 男性
アルコール性肝障害、マロリーワイス症候群の既往がある。
また、輸血歴もあり、6年前に、抗Di の存在を指摘されていた。
持続性食道破裂にて緊急手術を施行した。入院時検査所見を表1に示す。
術中、ショック状態であり、濃厚赤血球(以下CRC) 3単位、保存血(以下WB) 1単位、新鮮凍結血漿(以下FFP) 3単位輸血した。
さらに、翌日、胸腔ドレーンよりの出血が持続するため、再開胸止血術を施行し、その時にCRC 11単位、濃縮血小板血漿(以下PC) 40単位、FFP 8単位を輸血した。
その後CRC 6単位、PC 40単位、FFP 5単位を輸血した。
患者は小康状態を保っていたが、術後8日目に T.Bil 34.3mg/dl と突然の上昇を認め、血漿交換を予定したが、途中心停止により死亡した。

表1 入院時検査所見
血液一般
LD 623 lU//
CK 399 lU//
CK-MB 2 lU//
ミオグロビン (+)
Na 138 mEq//
K 3.7 mEq//
Cl 104 mEq//
UN 24.2 mg/d/
Cr 1.7 mg/d/
Glu 90 m9/d/
RBC 323×10/μ/
WBC 6、200/μ/
Hb 12.2 g/d/
Ht 35.5%
Plt 5.0×10/μ/
生化学
T.Bil 1.8 mg/d/
AST 420 lU//
ALT 96 lU//

エビデンスの道しるべ
患者血清中に事前に抗Diを指摘されていたことから、Di不適合輸血を疑った。
以下の事項が重要である。
…樟楾灰哀蹈屮螢鷸邯(DAT)の陽性化と抗体価の推移
⇒血副作用の原因抗体の評価
・ lgGサブクラス
・単球貧食試験
I垉則抗体保有者への緊急手術が必要な場合、得られる適合血の頻度
ね老貔副作用の発症リスクと失血に伴うリスクの選択

エビデンス

1.輸血検査
血液型B型、CcDEe、Le(a-b+)、Jk(a-b+)、Fy(a+b-)、kk、Ns、P1、Jr(a+)、Di(a+b-)。
直接抗グロブリン試験陰性、不規則抗体検査で間接抗グロブリン試験法でのみ陽性反応を示す抗Di (抗体価2倍)が検出された。
IgGサブクラスは凝集法でIgG2(2+)、IgG4(2+)、IgG3(1+)、IgG1(-)、間接蛍光抗体法で判定不能であった。
緊急手術翌日、直接抗グロブリン試験は陽性のままだったが、赤血球抗体解離試験(DT解離)が陽性となった。
8日目には直接抗グロブリン試験は3+となり、解離試験は4+と強陽性を示した。
血清中の抗体価は、術翌日1倍、5日目には陽性化し、6日目16倍と上昇した。
IgGサブラクスは8日目の解離抗体が IgG3 type を示した。
単球貪食試験は血清抗体で弱陽性、8日目の解離抗体では強陽性であった (図1、表2)。


表2 輸血検査単球貪食試験
採取期 検 体 陽性率 付着率 貪食率 TPI* 判 定
初診時
入院時
血 清
血 清
17.5
2.2
0.065
0.002
0.125
0.020
0.190
0.022
陽 性
弱陽性
輸血時
死亡時
解離液
解離液
16.5
47.0
0.030
0.330
0.160
0.512
0.190
0.842
陽 性
強陽性
*total phagocytic index
2. 生化学検査
入院時AST 420U、ALT96Uと高値を示していたが、術後漸減した。
またLDは死亡時に955 IU/lであった。
T-Bilは術後軽度上昇し、一定値を維持したが、8日目突然34.3 mg/d/ と異常高値を示し、同時にKも8.1 mEq/l となった。
UN、Creは術後軽度上昇したが、3日目には入院時の値にもどり、8日目にそれぞれ70.4 mg/dl、2.0mg/dlと上昇した。
Hp、ヘモペキシン(Hpx)は入院時より低値であり、術翌日もほぼ同値を保っていたが、8日目には激減していた。
手術時より死亡に至るまでの血液および生化学検査所見を示す(図2、3)。

どう考える?

Di不適合輸血






血管外溶血反応
 今回、事前に抗Diの存在が確認されていたにもかかわらず、適合血Di(b-)型はまれであり、さらに夜間緊急外来からの緊急手術のためやむをえず大量のDi不適合輸血を施行した。
患者は基礎疾患に肝障害があり、全身状態も悪く、輸血副作用を確認するには至らなかった。
 不適合輸血後、抗体価は5日目に消失し、6日目には16倍と上昇した。
これは大量の輸血や補液による希釈と、Di陽性血球による2次免疫応答で抗体価が上昇したものと思われる。
この抗体価上昇の翌々日、突然のT-Bil、Kの異常高値が出現した。
これは門脈内血栓症などが考えられたが、抗体価の上昇とほぼ一致すること、またIgGサブクラスが蛍光抗体法で8日目にIgG3 type に反応がみられたこと、さらにその抗体による単球貪食試験も強陽性であったことなどから、不適合輸血による血管外溶血反応が起きていたことも示唆された。
 日本人におけるDi(-)適合血の頻度は0.23%と考えられており、抗Diを保有する患者が緊急輸血を要する場合、適合血を得ることは困難を極める。
したがって、臨床上、失血に伴うリスクが不適合輸血に伴う溶血性副作用の発症リスクに勝ると判断し実施した場合には、腎不全やDICなどの合併に対し適切に対処するため、血液・凝固学的、生化学的検査所見に加え、不規則抗体スクリーニング、DAT、抗体価などについてもモニタリングするべきと考える。
また,不適合輸血に際しては、本人あるいはその家族に対してインフォームド・コンセントを行い、治療に対する理解を得ておく必要があると考えられる。
結論は?
基礎疾患の肝障害に加え、Di不適合輸血により血管外溶血反応が起きていたと考えられる。

文 献
1)遠藤 剛,他:著明な高ビリルビン血症を伴い死亡したDi不適合輸血の1症例。最新医学,47 : 132 〜135,1992.
2)Thompson,P.R.,Childers, D.M.,Hather,D.E.:Anti-Di-First and Second Examples. VoxSang.,13:314〜318,1967.
3)小笠原健一,他:献血者から検出された不規則抗体及びDel型に対する単球貪食能.第11回 日本血液事業学会総会抄録集,94,1987.
4)東谷孝徳,他:遅発性溶血性輸血副作用を起こした4症例,J.Jpn,Soc,Blood Transfusion,32(2):296,1986.
5)唯水真理子,他:腎不全を呈しながらも救命し得た抗E不適合輸血の1症例.日本輸血学会 雑誌,34(2):186,1988.
6)吉岡尚文,他:不規則抗体保有者へのやむを得ぬ不適合輸血の輸血例.日本輸血学会雑誌,34(6):650,1988.
7)和田英夫,他:当教室で経験した輸血後GVHDの6症例.日本輸血学会雑誌,35(5):525〜529,1989.
(遠藤 剛)