雑誌インタビュー・執筆情報
PREVISION JULY2000 Vol.2 No.5
待合室利用法
壁一面を使った 医療情報提供は、患者学習と職員教育を兼ねる 福島県は会津若松市。 外科・肛門科を中心に内科・胃腸科も手がける医療法人健心会えんどうクリニック(10床)は昨年11月、開業5年目の節目を迎えた。 この間「納得のいく診療、わかりやすい 医療」を診療姿勢に貫いてきた。 そのためのひとつの実践が日常的な医療・健康情報の提供である。 |
逆転の発想で壁を活用
何はともあれ、写真をご覧いただきたい。これは、えんどうクリニックの外来待合室の壁面と、病棟にある談話コーナーの様子だ。
待合室の壁面全体を使って張り出してあるのは、各種の医療・健康 情報で、写真やイラスト、自院の紹介記事をはじめ、クリニック手製の健康PRチラシまで、まさに多岐多彩。
あくまでも整然と、色彩バランスも考慮されているように見える。
院内掲示は、医療機関にとって大問題のひとつ。
見栄えと、効果を両立させるのはむずかしい。
壁一面を大胆に使ってしまうというのはまさに逆転の発想といえそう。
「開業時からのやり方です」と言う院長の遠藤剛氏の考えは明確だ。
「診察のときに患者さんと1対1で話せることは限られています。
だったら、せっかくの待っている間に、読んだり見たりできるような健康にかかわる関心に応える情報をできるだけ提供する工夫をすれば、患者さんも勉強できるのではないでしょうか」「これからの 患者さんは"医師にお任せします"ではダメ。
自分の病気を知って、疑問が湧けば専門家に聞けるようになることが大事です」
掲示物は全員で点検
待合室壁面の徹底利用の第一の理由が、医療・健康情報の提供・開示であるとすれば、第二の理由は職員教育にある。掲示する情報は、遠藤氏の専門である肛門科の話題ばかりではない。
水虫など皮膚疾患からがんなど成人病疾患、季節限定の花粉症対策情報にまで及ぶ。
掲示するポスターなどを作成し、用意するのは遠藤氏の役割だが、必ず、事前 に全職員の反応・感想を確かめることにしている。
看護・事務・給食・看護補助、職員15人全員のさまざまな視点で、用意したものが果たして関心を引くものになっているのか、わかりやすい内容なのかなどについて事前の点検を行う。
どんな小さなチラシであっても、全員でその内容を事前に学習し、院内掲示物として責任を持とうという、職員教育の機会を兼ねているのである。
掲示内容を、患者・家族の誰から職員が尋ねられるかも知れないし、適宜、答える役割ももっているからだ。
一方、遠藤氏にとっては、専門外のケースであっても、掲示情報をもとに相談を受けた場合には、PRした側の責任が生ずる。
「私の守備範囲(専門)外の疑いがある場合には、初診のあと、心他の医師を紹介します」
実は、こうした結果も含めての紹介患者数は年間1000件近く(1999年内で912件)にものぽるのである。
面識のない人からの感謝
「大事なことは、いろいろな知識をこの待合室で吸収してもらって、いずれ、気になる症状があった場合に、どこの医療機関でもいいから受診する、賢い患者になってもらうことです」こんなことがあった。
えんどうクリニックの患者ではない、全く面識もない人から感謝の電話を受けたのだ。
話を聞いてみると、ある患者の付き添いで来院したことがあって、その際、壁に張ってあったヘルニアに関する話題を目にしていたところ、偶然にもその後、ヘルニアを疑うような症状が出て、近くの医療機関を受診し、事無きを得たというのであった。
腰痛だと思っていたところが胃がんであったとか、肩の痛みで受診した結果が心筋梗塞による放散痛であった、といった事例は少なくない。
なかには「そういえば、こんなことをいつか読んだことがある」という患者もいて、自分の病状認識もスムーズに進むことになる。
実際の掲示方法についてのノウハウを、遠藤氏に幾つか挙げてもらった。
掲示物の選択には、かなり吟味を加える。
なんといっても 視覚に訴えること、一見して理解しやすいように、カラー写真や、効果的なイラストを多用する。
掲示にあたっては、全体の色の配置を考えながら、どうすれば目を引くかで決める。
季節ものは、会計窓口の近くで目に付きやすい場所を選ぶ。
基本的に半年に1回、全体を見直しモデルチェンジする。
大事なことは、外来と病棟では、掲示物を同じにしないこと。
外来 待合室ではさまざまな分野のものにする一方、病棟の掲示物は、入院患者の関心の強い胃・大腸・肛門など専門的な内容のものが中心だ。
それと、これは掲示物ではないが、病棟の談話コーナーには院長の人となりを知ってもらうためのファイルも用意してあり、膨大な投稿記事(趣味のエッセイや川柳など)が収めてある。
今年1月、開院5周年を記念して『まごころ医療新聞』を創刊した。
A4版4ページ建て、不定期刊の広報紙は、遠藤氏の専門診療のほか、歯科や薬剤、季節と病気など、こちらも待合室の壁を使った健康情報のように多彩な内容だ。
最近はインターネットにも力を入れ、患者の健康学習の機会づくりをさらにパワーアップさせている。