雑誌インタビュー・執筆情報
Medic 2004 Vol.39
四身一体で進める「納得のいく分かりやすい医療」
会津若松市(人口約12万人)には市内最大の竹田綜合病院(1,100床)をはじめ8つの病院、そしておよそ90軒の開業医が集中する。 このような地域でえんどうクリニックは地域の住民から大きな支持を得て、毎日の来院患者さんは100名を超える。 患者さんにとって「納得のいく分かりやすい医療」を掲げるえんどうクリニックでは、院長遠藤剛先生とスタッフが実際に、日々どのような取り組みをしているのかレポートする。 |
欠かさぬ朝の院内カンファランス
毎日診療前8時からの朝礼がえんどうクリニックの開院以来の日課である。「病棟の申し送りなど連絡事項は当然ですが最近起こったことで注意、改善すべきことがないか反省をします。
そのため、外来患者さんに随時アンケートをお願いしています。」と遠藤先生はその目的について述べている。
さらに、興味深いあるいは注意すべき症例について遠藤先生のレクチャーがある。
院長としてのポリシーも繰り返し伝える。
「トップがしっかりポリシーを持って、はっきり伝えないとスタッフはなかなかついてきてくれません。
また、たまに偉そうなことを言っても聞いてもらえない、毎日の積み重ねが大切です。」
この朝礼が終わる頃、開院時間を待ちかねた患者さんがつめかけて、外来診療が始まる。
クリニックは1つの船である
遠藤先生はすべてのスタッフで贋報を共有すべきと考えている。朝礼も看護師だけでなく、原則として全員参加である。
「僕は医師の部門と看護婦、事務、薬剤師そして厨房・栄養士部門で四身一体という言葉をよく使います。
船というのは皆でオールを漕ぎます。
私がコックス(艇長)になって方向には責任を持ちますが、1人でも力が抜けるとまっすぐ進みませんね。
それが医療の基本ですよ。
えんどうクリニックでは皆が情報を共有しているという自信があり、15人のスタッフの誰もが患者さんからの問いに明るく、よどみなく応対しているのが印象的である。
外科医についての考え方
えんどうクリニックは10床の入院設備を持つ。これは遠藤先生の外科医としての考え方に基づく。「個人としての考え方では24時間開業しているのが外科医です。
昼診た患者さんが万一夜具合悪くなったら“他の先生に診てもらっでと言うのでは、診る先生も大変だと思います。
入院してもらえばいつでも診られます。外科医の責任は、24時間ずっと診るものだと思っています。」
一時はえんどうクリニックの評判が高まるにつれ、予約申し込みが殺到し入院3ヵ月待ちというような状況になってしまった。
先生はベッド増設も検討したが「その頃から日帰り手術という概念がでてきた。
ここ5、6年で、大腸ポリープや痔の手術もその日のうちに帰ることが可能になりました。」それで、無理をして増やさなくてもいいと考えている。
現在入院患者さんの約6割が痔で、4割くらいポリープである。
痔の手術は平均1ヵ月以上の入院が必要な時代もあったが、今ではだいたい1〜2週間で退院できる。
先生の実感では痔の患者さんで手術が必要な方は1〜2割くらいで、残りの方は通院で完治する。
また、食生活の西欧化とともに大腸ポリープが増えてきている。
日本でも大腸癌患者が増えており、胃癌を抜くのは時間の問題だろうとのことである。
夜開かれる健康相談
毎週木曜日、診療終了後の午後7時から健康相談の時間を設けている。「患者さんにはほかの患者さんや看護婦さんの前では話しにくいことがいっぱいあります。
患者さんに話しにくい雰囲気があるなと思ったら"健康相談でよろしかったら個別で、無料で相談に乗ります。あなたが外来で言えないことをどんどん僕に質問すれば答えましょう。"という情報を投げかけます。」
毎回、10人くらいの方がみえて、ときには終わるのが10時くらいになることもある。
そこでは嫁姑の関係などの問題も出て、この人の胃の具合が悪い本当の原因が分かったということもあった。
また「僕は問診で7割の疾患は見当がつくと思います。
ただ、人の話をよく聞いてあげるのが一番と分かっていても、毎日非常にたくさんの患者さんが見えるので限界があります。」
そこで、必要な場合は健康相談に改めてきてもらうのが現状です。
先端医療を勉強し、機器を使いこなすと同時に、人の機嫌、顔つき、歩き方、目つきなどから雰囲気を掴んでこの人は何を考えているか、また、何を目的で来院したのかを判断するのが木当の臨床だと思います。」
遠藤先生は情報の収集には大変どん欲で、手間も時間も惜しまない姿勢を崩さない。
病診連携と診診連携
遠藤先生は連携に積極的である。「自分の信念としては、自分の診られる範囲の患者さんは最後まで診ようということです。
逆に専門外というか僕の範囲ではないという患者さんはすぐ手放す、紹介する。去年1年で大病院に800人、開業医に500人、合計約1,300人送りました。」
かつては開業医から病院への紹介が大部分であったが、近年それぞれの専門を持つ開業医の先生が増えていて診診連携が盛んになっている。
また、病院に送るときも単に紹介するだけではない。
「大事なのはただ○○病院に行きなさいではなくて、その病院の何科の○○先生に送る。ほとんどご指名で紹介します。」
逆に、えんどうクリニックヘの紹介患者は年間およそ1,000人に達する。
開院間もない頃、会津若松市医師会の先輩の先生から、"患者さんを送ると、患者さんが減ったと嘆いてはいけない。
いい先生に送ってあげると患者さんは別の患者さんを引き連れて、いい先生紹介してくれてありがとうと帰ってくるものだ"と言われて目から鱗がおちましたね。」
次の10年に向かって
平成6年開院初日の来院患者さんは19名、しかも「そのうち10名はうちの親戚でした。」と今では笑顔で語る遠藤先生。それからは、えんどうクリニックでできること、得意な分野をさまざまな機会、方法でアピールしてきた。
患者さんや家族からの話を聞き、要望に応えていった。情報の発信と収集によって地域住民の信頼を勝ち得たと言えよう。
開業してから先生は漢方について興味を持って研究した。
「漢方ではうまくいけば薬の量が少なくて済むし、経済的にも安い。若い人を含めて患者さんの需要も多い。
ただ漢方は飲みづらくて駄目だという人には我慢して飲めとは言いません。」
薬局の協力を得て、漢方薬のレクチャーを開いたり、月1回「漢方外来」を開いて患者さんの要望に応じている。これからはアロマセラピーも研究していきたいとのことだ。
また、最近では診療所におけるリスクマネジメントにも力を入れ、朝日新聞にも取り上げられたほどである。
しかし、基本的には今までやってきたことを踏襲して漏れがないようにするのが現在の先生の方針である。
そして「人と話すのが好きじゃないと医者はできません。
僕は今日どんな出会いがあるだろう、どんな病気が目の前に現れるのか、わくわくするような気持ちで毎日の診療を始めます。」という先生の気構えが根底にある。
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