大塚薬方7・8号
第六回 調剤過誤
目で耳で 念には念の 処方箋
いわゆる「ヒヤリハット」は、医療に付きものだ。先月中旬、「厚生労働省は今年度、医療事故に至らなかったニアミス(ヒヤリハット)事例について、薬局で収集する事業に乗り出す。
医薬分業が進む中、複数の病院からの重複投薬など薬局ならではの事例を分析し、医薬安全の向上につなげるのが狙い」という記事が時事通信社から配信された。
記事は、「財団法人日本医療機能評価機構が平成十六年度(2004年度)から、医療機関のヒヤリハット収集・分析を実施。
月一万五千?二万件ほどの報告があり、このうち薬の取り違えなど薬剤関連は約三割を占める」という事実に触れた上で、だが、これは院内事例だけを対象としていることもあって、「六割近くは院外の薬局で調剤を受けているが、薬局は報告施設ではないため、重複投薬や市販薬・健康食品との併用など、薬局特有の情報は集まらない」と指摘。
このため厚生労働省が昨年度、日本薬剤師会に委託し、ヒヤリハット収集の在り方を検討していたのだそうだ。
つまり医薬分業が進んだ今日の状況を鑑みて、いよいよ本格的に調剤過誤の対策に乗り出したということだろう。
昨年の医療法改正で薬局が医療提供施設に位置づけられたことによって、すべての薬局に安全管理体制の整備が義務付けられたことは、薬剤師の役割と責任を促すという意味においてとても良いことだと思う。
これにより、あってはならない調剤過誤を中心とした薬剤にまつわる事故軽減が進むはずだ。
事実、こうした状況を受けてソフト、ハード両面から具体的な形で調剤過誤を防止するマニュアル整備、教育、システム開発などを進めている調剤薬局が増えてきていると聞く。
もちろん院内薬局においても同様である。
これも良いことだ。
しかし、人の生き死にに関わることなので、考えてみれば当たり前のことだ。
むしろ今までがこういう認識において甘かったといえるかもしれない。
だが、薬剤師や薬局に役割と責任に対する覚悟ができ、現場での対応策が整ったとしても、最終的には人のすること。
事故がゼロになるとは言い切れまい。
それに薬を投与するということは本来、体内に異物を入れることと同義であるがゆえに、薬が"両刃の剣"的なものであることはいわずもがなである。
それにもかかわらず、治療のほとんどは薬物に依存する。
したがってやはり、患者からの十分な情報収集をした上での服薬指導が薬剤師の重要な仕事になる。
そのためには医師から回ってくる処方箋の入念なチェックはことのほか大切である。
もちろん医師の側も責任をもって分かりやすい処方箋の出し方をするように努めなければならないし、薬剤師からの疑義照会などにも懇切丁寧に対応していかなくてはいけない。
最近は、ジェネリック医薬品の使用も急速な勢いで進んでいる。
製品の種類や名称、形状などその判別はより複雑になってきている。
このあたりも二重丸の要注意事項だ。
加えて医師や薬剤師のあずかり知らぬところでサプリメントや健康食品を摂っている患者も少なくない。
こうしたものと薬との相互作用を考慮しなければならない場面も度々だ。
「目で耳で 念には念の 処方箋」
調剤過誤による事故は大きな医療事故だ。
これを未然に防止するために最後に頼れるのは、薬に関与する医師や薬剤師の確かな知識と研ぎ澄まされた感覚に裏打ちされた念の入れよう以外の何ものでもない。